電気けいれん療法の歴史、効果、適応、禁忌、副作用など解説【2020年保存版】

電気けいれん療法(ECT)とは

電気けいれん療法(electroconvulsive therapy:ECT)は、経皮的に頭部に通電を行い、脳に人工的なけいれんを誘発することで治療効果を得る、精神神経疾患に用いられる治療法です。

電気けいれん療法(ECT)の歴史

電気けいれん療法(ECT)の誕生

世界初の抗精神病薬であるクロルプロマジンが発見される1952年以前から精神疾患をもつ患者さんの治療は行われていました。

精神疾患の患者さんは、起源前のヒポクラテスの時代から報告されていて、その当時は瀉血や鍼、灸、浣腸などの治療が行われていました。

当時は全て宗教的な意味合いから病気に罹患すると思われていた時代にはかなり活気的なものでした。

その後も、精神疾患に対する治療として、マラリア発熱療法(1917)、インスリンショック療法(1933)、けいれん療法(1934)、ロボトミー(1935)などが実行されていました。

けいれん療法は、当時、てんかん患者は統合失調症を合併しないと信じられており、「てんかん発作には精神病を予防・治療する効果があるのではないか」という着想のもとに行われたハンガリーの精神科医ラディスラス・J・メドゥナの仮説から始まっています。

メデュナは、人工的にけいれんを誘発して精神疾患の治療しようと、1934年に早発性痴呆(現在の統合失調症)の患者さんにカルジオゾール(薬物)で誘発したけいれんによる治療を実施し、その精神症状への有効性を確認します[1]。

そして、統合失調症患者さんへの薬剤誘発けいれんによる治療が試みられ、けいれん誘発物質として初期にはカンフル(樟脳)やカルジオゾールがよく用いられる様になりました。

この結果を受け、1938年にイタリア・ローマの神経学者ウーゴ・チェルレッティとルシオ・ビニが、精神分裂病(現在の統合失調症)に対するショック療法として通電することにより動物にけいれんが誘発されることから、確実なけいれんを起こさせるために、薬剤ではなく、電気刺激による脳への通電を用いた方法を発表しました[2]。

ちなみに最初の症例はローマ駅をうろついていた統合失調症の患者さんで、この方に11回の電気けいれん療法を行い、復職させたとの報告があります。

これが精神疾患治療としての電気けいれん療法(1938)の始まりです。

このように統合失調症患者に対して、経皮的な脳への通電によるけいれん誘発が施行され治療効果を認めたことから、欧米では精神科治療として1940~60年代にかけて電気けいれん療法(ECT)が広く行われるようになり、同時にうつ病への治療効果も多く報告されるようになりました。

日本でも、1939年に九州大学の精神科医安河内と向笠により統合失調症に対する電気けいれん療法(ECT)が報告されると、薬物療法など精神疾患への確実な治療法がない時代だったこともあり、急速に普及していきました[3]。

修正型電気けいれん療法(m-ECT)の誕生

麻酔や筋弛緩薬を使用せず施行する従来型の電気けいれん療法(ECT)では、施行前に患者さんに恐怖感を与えることや全身の強直間代けいれんに伴う骨折や、急激な血圧上昇などの副作用が少なからず起こることが問題でした。

そこで、施行前の患者の恐怖感に対しては、バルビツール系の静脈麻酔薬が用いられるようになりました。

けいれん発作時の骨折などの事故を減らす工夫としては、通電後の脳のけいれん波と同期した体の全身けいれんが起こらないようにするために、筋弛緩薬が用いられるようになりました。

ただ、1952年にクロルプロマジンが発見されたことや、電気けいれん療法(ECT)は依然として安全面での評価に対しての不安や患者さんに強制的に行う負のイメージが強かったため、次第に第一線の治療から後退していきました。

その後、1980年代になると、リエゾン精神医学の進展に伴い、精神科が総合病院の1つの科として位置づけられるようになり、麻酔科医と連携して行う修正型電気けいれん療法(modified electroconvulsive therapy:m-ECT)が徐々に普及したことで、電気けいれん療法(ECT)の麻酔に対しての安全性が高まり、またインフォームドコンセントを行う事で、従来の負のイメージは徐々になくなっていきました。

米国では米国精神医学会が電気けいれん療法(ECT)に関する専門委員会を設置し、1990年、2001年にECT全体を網羅するガイドライン「APAタスクフォースレポートECT実践ガイド」を刊行、英国でもECTに関するガイドラインが刊行され[4][5]、日本でも、2000年に初めてのECTマニュアルが出版されました[6]。

現在では、このような流れを汲んで、インフォームドコンセントを取得し、麻酔科医と連携した呼吸循環管理のもとで、十分な酸素化と筋弛緩薬と静脈麻酔薬を用いて行う修正型電気けいれん療法(m-ECT)が推奨される標準的治療となっています。

サイン波治療器「木箱」からパルス波治療器「サイマトロン」へ

通電のための電気けいれん療法(ECT)の機器として、最初はサイン波による治療器「通称:木箱」が用いられていました。

サイン波治療器は、2本の電気通電用の棒の先についている布の部分を生理食塩水で湿らせ、治療者が両手で2本の電気通電用の棒を持ち、棒の先の布部分を患者さんの両側の側頭部に当てながら通電ボタンを押し、サイン波を100Vで5秒間程度通電することで脳のけいれんを誘発する機器です。

1976年に開発されたパルス波型の通電機器「サイマトロン」はサイン波に比べて認知障害が生じにくいとされ、2002年には日本でも認可されました[7]。

パルス波治療器はパルス波を通電に用いることで、従来の刺激装置であるサイン波治療器の約1/3程度のエネルギー量で神経細胞の脱分極を起こすことができるため、効率的にけいれん閾値に達して発作誘発ができることに加え、個人の電気抵抗値によらずに定電流を通電できるのです。

副作用の点ではパルス波が圧倒的に有利ですが、けいれん誘発性の点ではサイン波の方が勝っていると考えられています。

ガイドラインでもパルス波でけいれん誘発に失敗したとき、サイン波を使うというアルゴリズムになっていました。

しかし、現在、サイン波は日本では生産中止になっており、今後の方針については日本の精神科医によって提案、検証されている状態です[8]。

電気けいれん療法(ECT)の作用機序

電気けいれん療法(ECT)の作用機序は不明ですが、多くの研究が行われています。

脳の画像による研究の知見からは、従来通電によるけいれん発作時は脳血流や脳代謝が増加し、発作後の数日間は逆にそれらが抑制されるなど、ECTによるけいれん発作の前後に脳血流や脳代謝の変化が起きることが知られていました。

近年の磁気共鳴分光法を用いた研究では、電気けいれん療法(ECT)後にγ-aminobutyric acid(GABA)の増加が示されており、ECTの持つ抑制性神経伝達促進の背景として、脳内GABA輸送の増加と受容体刺激の増加が関係している可能性が指摘されています[9]。

また、ECTが神経伝達物質やその受容体へ与える影響や細胞内情報伝達系に与える影響が注目され、モノアミン、コルチゾール、副腎皮質刺激ホルモン、コルチコトロピン放出因子、甲状腺刺激ホルモン、プロラクチン、オキシトシン、バソプレッシン、デヒドロエピアンドロステロン硫酸エステル(DHEA)、腫瘍壊死因子α (TNFα)等の生体内物質の電気けいれん療法(ECT)による変化も注目されてきました。

近年では、電気けいれん療法(ECT)後の血液中脳由来神経栄養因子 (brain-derived neurotrophic factor:BDNF)の増加が報告され、電気けいれん療法(ECT)が神経細胞の可塑性、再生、維持に関わる神経栄養因子を強化し、海馬を主体とする内側側頭葉を中心として神経栄養効果を持つ可能性が指摘されるようになりました[10][11]。

うつ病患者ではメタ解析でもECT治療後のBDNFの増加が確認されており、BDNF増加とハミルトンうつ病評価尺度(Hamilton Depression Rating Scale:HAM-D)総得点減少が相関するという報告もあります[12]。

また霊長類を対象にした動物実験では、電気けいれん療法(ECT)により海馬での神経新生が促進されたことが報告されています[13]。

このようにECTの有効性における作用機序について、いくつかの報告は提示されているものの、現在まで電気けいれん療法(ECT)の明確な作用機序は明らかにされていません。

電気けいれん療法(ECT)の適応となる診断

電気けいれん療法(ECT)が適応となる診断には主要な診断とその他の診断があります。

主要な診断は、有用性を支持する実証レベルの高いエビデンスがあるか、使用を支持する強力なコンセンスがあるものです。

適応となる主要な診断

うつ病圏

双極性障害圏

躁鬱混合状態

統合失調症圏

急性発症、緊張病症状、感情症状を伴うもの及び関連する精神病性障害や、統合失調症様障害、統合失調感情障害、特定不能の精神病性障害など

適応となるその他の診断

その他の精神疾患

主要な診断以外の精神疾患:難治性強迫性障害など

身体疾患に起因する精神障害

身体疾患に起因する続発性の重症緊張病性障害、精神病性障害、感情障害など

身体疾患

悪性症候群:薬剤療法が無効な場合、精神症状の増悪が認められる場合
パーキンソン病:薬剤療法に限界が生じた場合(on-off現象など)、精神症状を伴う場合
難治性発作性疾患
慢性疼痛

電気けいれん療法(ECT)の適応となる状態

電気けいれん療法(ECT)が適応となる状況には、薬物療法に先立つ一次治療として電気けいれん療法(ECT)が検討される場合と、薬物療法などの他の治療が実施された後の治療としての二次治療として検討される場合があります。

一次治療として適応となる状況

  • 迅速で確実な臨床症状の改善が必要とされる場合
    (自殺の危険、拒食・低栄養・脱水などによる身体衰弱、
    昏迷、錯乱、興奮、焦燥を伴う重症精神病など)
  • 他の治療法の危険性がECTの危険性よりも高いと判断される場合
    (高齢者、妊娠中、身体合併症など)
  • 以前、薬物療法の反応が不良であったかECTの反応が良好であった場合
  • 患者本人の希望

二次治療として適応となる状況

  • 薬物の選択、用量、投与期間、アドヒアランスの問題を考慮したうえで、薬物療法に対する抵抗性が認められる場合
  • 薬物療法に対する忍容性が低いか副作用が認められ、ECTの方が副作用が少ないと考えられる場合
  • 薬物療法中に患者の精神状態または身体状態の悪化が認められ、迅速かつ確実な治療反応が必要とされる場合など

電気けいれん療法(ECT)の禁忌

米国精神医学会は、ECT導入に際しての絶対的禁忌はないとしながらも、リスクが増す状態として相対的禁忌を定義しています[4]。

パルス波治療器であるサイマトロンの添付文書では、これらが反映され原則として禁忌となる疾患や状態として、以下を上げています。

  • 最近起きた心筋梗塞、不安定狭心症、非代償性うっ血性心不全
  • 重度の心臓弁膜症のような不安定で重度の心血管系疾患
  • 血圧上昇により破裂する可能性のある動脈瘤または血管奇形
  • 脳腫瘍その他の脳占拠性病変により生じる頭蓋内圧亢進、最近起きた脳梗塞
  • 重度の慢性閉塞性肺疾患、喘息、肺炎のような呼吸器系疾患

電気けいれん療法(ECT)の有用性

うつ病に対する電気けいれん療法(ECT)の効果としては、プラセボ、模擬ECT、経頭蓋磁気刺激(transcranial magnetic stimulation:TMS)、抗うつ薬のいずれと比較しても、電気けいれん療法(ECT)の有効性が勝っていることが示されており、薬物治療抵抗性うつ病や精神病症状を伴ううつ病に対しての有効性も確立しています[15]。

電気けいれん療法(ECT)は単極性うつ病、双極性うつ病の双方のうつ状態に有効であり、同時に双極性障害の躁状態や躁鬱混合状態への有効性も知られています[16][17]。

電気けいれん療法(ECT)が抗躁効果を示すためにはうつ状態より時間がかかり両側性でうつ病より多い治療回数が必要とされています[18]。

重症躁病や薬物治療抵抗性の遷延性躁状態でも電気けいれん療法(ECT)の適応はありますが、躁状態では意識障害、頭部外傷、HIV感染等の器質疾患のECT前の鑑別が重要となってきます[19]。

また、電気けいれん療法(ECT)はカタトニアへの高い効果も知られています。

カタトニアは統合失調症をはじめ、様々な疾患で起きうる症候群であり、躁状態やうつ状態、抗NMDA受容体抗体脳炎などの器質性精神疾患、自閉症スペクトラム障害などでも起こりえます[20][21]。

カタトニアのロラゼパムでの寛解率は80~100%と高いため、通常のカタトニアではロラゼパム等のベンゾジアゼピン系薬剤が優先して使用され、治療抵抗性の場合にECTが検討されるが、生命に危険の高い悪性緊張病ではECTは一時的治療選択になりうえます[20]。

統合失調症では前述のように緊張病症状を伴うものには著効することが多く、精神運動興奮状態の場合や、昏迷など、薬物治療抵抗性統合失調症の治療として、ECTが位置づけられるようになっていますが、慢性的な幻覚妄想や陰性症状および認知機能低下には効果が乏しいことも多いのが現状です。

電気けいれん療法(ECT)の早期効果発現

ECTの効果発現の特徴として、発現が早いことがあげられます。

Husainらはうつ病の患者に対し週3回のECTを施行し反応や寛解のスピードを検討したところ、54%が1週目3回目のセッションまでに治療反応がみられ、2週目6回目のセッションまでに34%が寛解し3-4週目10回目のセッションまでに65%が寛解したことを示しています[22]。

このようにECTは早期の症状改善効果を持ち、早急な抗うつ効果が必要とされる症例に有用で、特に、深刻な自殺念慮があり自殺が切迫している状態の早期改善を要する場合や、精神症状から食事摂取が困難で栄養の維持が困難な場合、全身状態が悪化してきており早期の症状改善を要す場合等には、薬物療法より効果発現や寛解に至るまでが早いECTが選択されます[23]。

電気けいれん療法(ECT)の限界

ECTは高い急性期効果を示す一方で、継続療法を行わない場合は高い再燃率を示すことが知られています。

ECT後6ヶ月の間にうつ病の1/3から半数以上が再発し、1年以内の再燃率も30~60%と報告されており、ECT後の再燃予防には、一般的に抗うつ薬やリチウムなどの気分安定薬による維持療法が行われます[24]。

ECT施行前に効果を認めなかった薬剤は維持療法としての効果も乏しいという報告がある一方で、薬剤抵抗性の患者がECT後に改善する可能性も示されています[24]。

Sackeimらは、ECT施行後6ヶ月後にプラセボ群では84%が再発したのに対して、ノルトリプチリン群は60%、ノルトリプチリンとリチウム併用群が39%と有意に低く、抗うつ薬の単剤投与よりリチウムの併用が維持療法として有効であったことを報告しています[25]。

また、ECTにより急性期症状が寛解した後の維持療法として、安全にECTを行うことができる環境がある場合に限って、薬物療法に加えて、もしくは単独で、間隔を空けつつ、継続してECTが行われることがあります。

一般的に、症状寛解に達してから再燃予防を目的に実施される6ヶ月以内の治療は継続ECT(continuation ECT)、再発予防を目的に行われる6ヶ月以上にわたる治療は維持ECT(maintenance ECT)と呼ばれます。

継続・維持ECTの目的は、定期的な低頻度のECTを行うことで症状の寛解状態を保つことであり、ECTの治療反応性が良く、薬物療法や認知行動療法などの心理社会的治療に抵抗性または忍容性が低いために再燃・再発を繰り返す症例に適しています。

維持ECTは、症状寛解後、最初は1週間に1回からはじめ、4回行ったところで症状が再燃しなければ、徐々に4週間に1回まで間隔を広げていく方法が良く用いられており、初めの1ヶ月は週に1回、次の1~2ヶ月は2週に1回、それ以後は月に1回で継続します[26]。

継続・維持ECTでの治療中に再燃・再発の兆候がみられた場合は、維持ECTの予定を早めることで対応が可能です。

また、薬剤治療継続のみのものと、薬剤治療と維持ECTを併用したものでは、維持ECTを併用したものの方が寛解維持の割合が高いという報告もあります[26]。

APAガイドラインや本邦でも継続・維持ECTに関する適応基準が示されていますが、一度継続・維持ECTに導入すると、ECT治療からの離脱が困難となるため、安易な維持ECT導入は避け、症例ごとに十分に適応を判断しインフォームドコンセントを行い慎重に適応を検討することが望ましいと考えられます[4]。

電気けいれん療法(ECT)の電極配置

電極配置は、両側性と片側性があり、両側性の場合は左右半球に通電され、片側性の場合は通常右半球に行われ右半球だけに通電されますが、共に通電による脳全体の発作誘発が可能です。

両側性の方が片側性よりも効果が高いとする報告が多く、現在は世界的に両側性ECTが主流を占めます。

しかし十分な刺激用量での右片側性ECTは両側性と比較し効果に差がなく、認知機能への影響が少ないのでより望ましいという報告もあります[27]。

電気けいれん療法(ECT)の副作用

致死的副作用

ECTによる最も重篤な副作用は死亡です[28]。

現在のECT治療による死亡率は概ね5~8万治療回数に1回程度の頻度で非常にまれで、これは小規模な外科手術や歯科麻酔の危険率にほぼ相当し、ECTは安全な治療法と言われています[4]。

近年の研究でもECT治療1日以内での死亡は10万治療回数に2.4回と低いが、事故や自殺を含むECTとの因果関係のない全ての死亡も含めた14日以内の死亡は10万治療回数に18回と報告されており、電気けいれん療法(ECT)中のみならず電気けいれん療法(ECT)後も慎重な精神・身体症状の管理と医療安全管理を要することが示唆されています[29]。

主な死因はけいれん直後や回復期の心血管系合併症や嘔吐に伴う窒息です[30]

心血管系合併症

通電中と通電直後には、通電による迷走神経の直接刺激から副交感神経が優位となり、発作中は交感神経が、発作終了後には再び副交感神経優位となります。

そのため、通電直後の副交感神経優位状態では徐脈、洞停止、血圧低下が、発作中の交感神経優位状態では頻脈・高血圧が、発作終了後には再び徐脈や不整脈が一過性に出現しやすくなります。

このような短時間の内に急激に生じる生理学的変化に対して、ECT中は麻酔科医による呼吸循環モニターと全身管理が必要になります。

また、電気けいれん療法(ECT)中の徐脈性不整脈、血圧低下、口腔内分泌の増大などの副交感神経反応を抑制するためには、抗コリン薬である硫酸アトロピンの麻酔導入直前の静脈内投与が有用なことがあります。

高血圧症合併症のある患者では朝の降圧剤を服用し、必要に応じてジルチアゼム、ニカルジピン等のカルシウム拮抗薬を電気けいれん療法(ECT)直前か直後に静注し管理します。

認知機能障害

電気けいれん療法(ECT)の副作用として出現する認知機能障害にはせん妄、健忘があります[31]。

発作後せん妄では、通常ECT麻酔覚醒後数分以内に簡単な従命や会話が可能となるところ、電気けいれん療法(ECT)麻酔覚醒時に数分から数時間の精神運動性興奮や失見当識を伴う錯乱状態を示すもので、安心できる声かけや静かな環境でのリカバリーが重要です。

時に、著しく興奮が強い場合は、静脈麻酔薬の再投与やミダゾラム、ジアゼパム等のベンゾジアゼピンの追加投与が有効な場合もあります。

ECTの継続が望ましい場合は、治療間隔をあける、刺激用量を下げる、右片側性に変更するなどの対策をとるか、やむを得ない場合は抗精神病薬などによるせん妄治療を行うなどの対策が必要な場合もあります。

健忘は前向性健忘と逆行性健忘があり、共に電気けいれん療法(ECT)終了後数日から数週で消失することが多いものですが、前向性健忘は速やかに回復するのに対し、逆行性健忘は回復に比較的時間がかかることがあり、時にECT治療中や開始直前の記憶は欠けたままのこともあります。

逆行性健忘は、ECT施行前に全般的な認知機能障害を伴う場合や、電気けいれん療法(ECT)施行直後の失見当識の持続時間が長いほど起こりやすいとされます[32]。

また、エピソード記憶より意味記憶のほうが、遠隔記憶より近時記憶のほうが障害されやすいことが知られています[33]。

認知機能障害の頻度は、片側性より両側性、刺激強度は、低用量より高用量の方が、また、パルス波よりサイン波の方が、頻度が高いとされています[26]。

その他、治療回数が多いことや、治療間隔が短いこと、患者年齢が高いことは認知機能障害のリスクの増加に関連しています。

認知機能障害が出現した時は、治療の中断、両側性から右片側性への電極配置の変更、治療頻度の引き下げ、治療有効性を損ねない程度の刺激強度の引き下げ、認知障害に関与している併用薬剤の見直し等の対策が検討されます[4]。

また、記憶障害は電気けいれん療法(ECT)中の低酸素とも関係があり、ECT刺激前の十分な酸素化が重要です[34]。

うつ病の精神運動抑制による認知機能障害は、ECTによるうつ症状の改善とともに回復するため、疾患の症状と電気けいれん療法(ECT)の副作用との鑑別が必要です。

副作用としての認知機能障害を正しく評価するためには、電気けいれん療法(ECT)前の認知症などの認知機能障害の合併を把握しておく必要があり、ECT施行前の脳画像評価と認知機能評価が重要になります。

電気けいれん療法(ECT)の反復施行により認知機能障害が進行するのかという懸念があったが、現在では否定的と考えられており、MRIやCTを用いたECTによる脳構造への障害についてのメタ解析でも、脳構造への障害は示されていません[34]。

その他の合併症

けいれん

電気けいれん療法(ECT)の通電直後のその他の副作用として、遷延性けいれん、けいれん重積、遷延性無呼吸が、電気けいれん療法(ECT)からの覚醒後に出現し数時間持続することがある副作用として、頭痛、筋肉痛、嘔気があります[4]。

遷延性けいれんは、通常2分未満で終了するけいれんが2分以上続く場合で、筋弛緩薬により運動成分が目立たない場合は脳波モニターで判断します[4]。

テオフィリンなどのけいれん誘発物質やリチウムの使用、電解質異常、1回の治療内での複数回の刺激、若年者、初回治療(投与電気量が不明)などではより出現しやすいとされています。

処置としては、マスク換気での酸素投与を続け、麻酔薬を追加するか抗けいれん作用のあるミダゾラムやジアゼパム等を静脈内投与します。

頭痛

頭痛は、ECT後約半数弱が自覚する最も頻度の多い副作用で、側頭筋や咬筋の通電による収縮や脳循環動態変化による疼痛と考えられ、非ステロイド系消炎鎮痛剤を用います。

筋肉痛

筋肉痛は通電による筋肉の収縮やサクシニルコリンによる筋線維束攣縮によると考えられ、ほとんどが一過性のものになります。

嘔気

嘔気は、麻酔薬、けいれん発作、手動換気時に胃内に流入した空気による胃内圧上昇などの影響によると考えられ、嘔気が強い場合はメトクロプラミド、ドンペリドンや制吐作用のあるフェノチアジン系抗精神病薬を使用します。

歯科損傷

歯科的損傷は、咬筋の収縮、人工換気、バイトブロックの挿入により起こりえるため、電気けいれん療法(ECT)の術前検査として口腔内診察を行い、必要に応じてバイトブロックを使用することが重要です。

躁転

うつ状態に対するECT治療中に躁転が出現することがあり、この場合には、電気けいれん療法(ECT)の抗躁効果を期待してさらに電気けいれん療法(ECT)を継続する場合と、電気けいれん療法(ECT)を終了し躁状態に対する薬物療法を行う場合があります[35]。

躁転は、ECT後の軽度の意識障害による脱抑制との鑑別が難しいことがあり、認知機能や脳波の評価が重要となります。

という事で、以上、電気けいれん療法(ECT)についてでした。
ありがとうございました。

 
【参考文献】
[1] Fink, M. (1984).
Meduna and the origins of convulsive therapy. The American journal of psychiatry, 141(9), 1034-41.
[2] CERLETTI, U. (1950).
Old and new information about electroshock. The American journal of psychiatry, 107(2), 87-94.
[3] 安河内五郎、向笠広次
精神分離症の電撃痙攣療法について 福岡医大誌 1939 ;32:1437-1440
[4] American Psychiatric Association
Task Force on Electroconvulsive therapy : The Practice of Electroconvulsive therapy : Recommendations for Treatment, Training, and Privileging 2nd. APA 2001
[5] Royal College of Psychiatrists
The ECT Handbook : The Second Report of the Royal College of Psychiatrists’
Special Committee on ECT, Royal College of Psychiatrists, London 1995
[6] 本橋伸高
ECTマニュアル~科学的精神医学を目指して 医学書院 2000
[7] Squire, L.R., & Zouzounis, J.A. (1986).
ECT and memory: brief pulse versus sine wave. The American journal of psychiatry, 143(5), 596-601
[8] 猪俣弘明 長パルス波が奏効した統合失調症の一例 2012
[9] Bajbouj, M., Lang, U.E., Niehaus, L., Hellen, F.E., Heuser, I., & Neu, P. (2006).
Effects of right unilateral electroconvulsive therapy on motor cortical excitability in depressive patients. Journal of psychiatric research, 40(4), 322-7.
[10] Marano, C.M., Phatak, P., Vemulapalli, U.R.,…, & Regenold, W.T. (2007).
Increased plasma concentration of brain-derived neurotrophic factor with electroconvulsive therapy: a pilot study in patients with major depression. The Journal of clinical psychiatry, 68(4), 512-7. [PubMed:17474805] [WorldCat] [DOI]
[11] Taylor, S.M. (2008).
Electroconvulsive therapy, brain-derived neurotrophic factor, and possible neurorestorative benefit of the clinical application of electroconvulsive therapy. The journal of ECT, 24(2), 160-5.
[12] Rocha, R.B., Dondossola, E.R., Grande, A.J.,…, & da Rosa, M.I. (2016).
Increased BDNF levels after electroconvulsive therapy in patients with major depressive disorder: A meta-analysis study. Journal of psychiatric research, 83, 47-53.
[13] Perera, T.D., Coplan, J.D., Lisanby, S.H.,…, & Dwork, A.J. (2007).
Antidepressant-induced neurogenesis in the hippocampus of adult nonhuman primates. The Journal of neuroscience : the official journal of the Society for Neuroscience, 27(18), 4894-901.
[14]本橋伸高、粟田主一、一瀬邦弘ほか
電気けいれん療法(ECT)推奨事項 改訂版 精神神経学雑誌 115: 586-600, 2013.
[15]Janicak, P.G., Davis, J.M., Gibbons, R.D., Ericksen, S., Chang, S., & Gallagher, P. (1985).
Efficacy of ECT: a meta-analysis. The American journal of psychiatry, 142(3), 297-302.
[16]Mukherjee, S., Sackeim, H.A., & Schnur, D.B. (1994).
Electroconvulsive therapy of acute manic episodes:a review of 50 years’ experience.The American journal of psychiatry,151(2),169-76.
[17], D.P., Polanco, P., Cruz, R., Shah, S., Paykina, N., Singh, K., & Majors, L. (2000).
The efficacy of ECT in mixed affective states. The journal of ECT, 16(1), 32-7.
[18]Grunze H, Erfurth A, Schafer M et al
Elektrokonvulsiontherapie in der Behandlung der schweren Manie: Kasuistik und Wissensstand Nervenarzt, 70 : 662-667, 1999
[19]Malhi, G.S., Tanious, M., & Berk, M. (2012).
Mania: diagnosis and treatment recommendations. Current psychiatry reports, 14(6), 676-86.
[20]Fink, M., & Taylor, M.A. (2009).
The catatonia syndrome: forgotten but not gone. Archives of general psychiatry, 66(11), 1173-7.
[21]DeJong, H., Bunton, P., & Hare, D.J. (2014).
A systematic review of interventions used to treat catatonic symptoms in people with autistic spectrum disorders. Journal of autism and developmental disorders, 44(9), 2127-36.
[22]Husain, M.M., Rush, A.J., Fink, M.,…, & Kellner, C.H. (2004).
Speed of response and remission in major depressive disorder with acute electroconvulsive therapy (ECT): a Consortium for Research in ECT (CORE) report. The Journal of clinical psychiatry, 65(4), 485-91.
[23]Kellner, C.H., Fink, M., Knapp, R., Petrides, G., Husain, M., Rummans, T., …, & Malur, C. (2005).
Relief of expressed suicidal intent by ECT:a consortium for research in ECT study.The American journal of psychiatry,162(5), 977-82.
[24]Bourgon, L.N., & Kellner, C.H. (2000).
Relapse of depression after ECT: a review. The journal of ECT, 16(1), 19-31.
[25]Sackeim, H.A., Haskett, R.F., Mulsant, B.H.,…, & Prudic, J. (2001).
Continuation pharmacotherapy in the prevention of relapse following electroconvulsive therapy:a randomized controlled trial.JAMA, 285(10), 1299-307.
[26]Kellner, C.H., Knapp, R.G., Petrides, G., Rummans, T.A., Husain, M.M., Rasmussen, K., …, & Fink, M. (2006).
Continuation electroconvulsive therapy vs pharmacotherapy for relapse prevention in major depression: a multisite study from the Consortium for Research in Electroconvulsive Therapy (CORE). Archives of general psychiatry, 63(12), 1337-44.
[27]Sackeim, H.A., Prudic, J., Devanand, D.P., Nobler, M.S., Lisanby, S.H., Peyser, S., …, & Clark, J. (2000).
A prospective, randomized, double-blind comparison of bilateral and right unilateral electroconvulsive therapy at different stimulus intensities. Archives of general psychiatry, 57(5), 425-34.
[28]Kramer, B.A. (1999).
Use of ECT in California, revisited: 1984-1994. The journal of ECT, 15(4), 245-51.
[29]Dennis, N.M., Dennis, P.A., Shafer, A., Weiner, R.D., & Husain, M.M. (2017).
Electroconvulsive Therapy and All-Cause Mortality in Texas, 1998-2013. The journal of ECT, 33(1), 22-25.
[30]Levin L, Wambold D, Viguera A et al.
Hemodynamic responses to ECT in a patient to critical aortic stenosis. J ECT, 52 : 884-885, 1997
[31]Beyer JL, Weiner RD, Glenn MD
Electroconvulsive therapy. A programmed test 2 nd,American Psychiatric Press, Washington DC, 1998
[32]Sobin, C., Sackeim, H.A., Prudic, J., Devanand, D.P., Moody, B.J., & McElhiney, M.C. (1995).
Predictors of retrograde amnesia following ECT. The American journal of psychiatry, 152(7), 995-1001.
[33]Lisanby, S.H., Maddox, J.H., Prudic, J., Devanand, D.P., & Sackeim, H.A. (2000).
The effects of electroconvulsive therapy on memory of autobiographical and public events. Archives of general psychiatry,57(6),581-90.
[34]Devanand, D.P., Dwork, A.J., Hutchinson, E.R., Bolwig, T.G., & Sackeim, H.A. (1994).
Does ECT alter brain structure? The American journal of psychiatry, 151(7), 957-70.
[35]Devanand, D.P., Sackeim, H.A., Decina, P., & Prudic, J. (1988).
The development of mania and organic euphoria during ECT. The Journal of clinical psychiatry, 49(2), 69-71.

タイトルとURLをコピーしました